文字書きワードパレットから生まれた、少しだけ未来のお話。
「あのね、お姉さま。内緒のお話があるの」
一瞬の静寂ののち、俯きがちに指先を弄っていたルシィはようやっと決心がついたのか顔をあげた。不安に揺れる彼女の目に映る自分の顔が柔らかな笑みを形作っていることを確認してから、私は彼女の言葉を促すように軽く首をかしげる。
「あの、えっとね、私、」
彼女の感情に応えるように吹いた風に揺られた豊かな蜂蜜色の髪から、微かな潮の香りが漂う。そういえば今朝、大事な用事で海岸のほうに行くとかなんとか言ってエリスに仕事を押し付けていた人がいたわね、なんて言ったらそれこそ野暮だろう。
あの日、ルシィと初めて中庭で会った時からいくつかの季節が過ぎた。鳥かごに閉じこもっていた小さな女の子はいつの間にか、若草のような美しさを纏うようになった。目の前で恥ずかしそうに耳を真っ赤にする彼女が、翼を得て、羽ばたいて、それでもこうして止まり木に戻ってくるように私を頼ってくれることへの嬉しさが心を満たす。
風が薫る。また夏が巡ってくる。夏はずっと、大嫌いな季節だった。お父様とお母様を亡くして、アルとロゼとお兄様と、それからシュワルツとを失いかけたから。
「……何を言っても、笑わないで聞いてくれる?」
「ええ、勿論!」
燃え上がる炎に二度も宝物を奪われかけた眩しい季節を、私はやっと少しだけ、好きになれるような気がした。
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